黛冬優子,ラン

 

最近、巷で「ストレイライトは芹沢あさひ無くしてあり得ない」といった趣旨の話題を耳にすることが間々あった。

 

なるほど、確かにその通りだと思った。そもそも筆者は芹沢あさひのオタクでストレイライトのオタクではなかったし、ストレイライトを推すようになった今でもイチオシは芹沢あさひだ。

 

実際、ストレイライトのセンターは芹沢あさひであるし、その圧倒的なアイドル性、その類稀な好奇心とバイタリティが天性のモノである事は今さら語る必要もないだろう。

 

しかし、だ。筆者にとって、ストレイライトとはどうしようも無く、黛冬優子によって始まったのである。

 

はじめに断っておきたい。この記事は筆者が持つ知識や、ゲーム内での出来事を元に主観でコンテクストを読み取ったモノに由来する。つまり、これから述べることは完全な筆者の解釈であるということで、解釈違いだなどと暴れられるのはごめん被るのでページを閉じてほしい。そもそも、似たような記事が既に存在する可能性すらあるが、そこは大目に見ていただければと思う。

 

さて、今回筆者は黛冬優子という1人のアイドルからストレイライトを解剖していきたい。そのためには、まず黛冬優子という人間について述べる必要があるだろう。

 

(全く関係ない話だが、筆者は決して黛冬優子のオタクというわけではない。あくまで芹沢あさひのオタクであり、ストレイライトのオタクに過ぎないということはご留意いただきたい)

 

1,「ふゆ」と「冬優子」

 

黛冬優子は2つの顔を持つ(二重人格というわけではない)。彼女はどちらの顔の時も自身をふゆと呼ぶが、便宜上、この記事ではこの2つの顔を「ふゆ」と「冬優子」として呼び分けたいと思う。

 

「ふゆ」はアイドルとしての顔だ。

 

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可愛らしく、キラキラしていて、とっても魅力的な女の子。プロデューサーによる黛冬優子のスカウト時に彼女が語っていた「アイドル像」そのものだ。

 

しかし、同じくスカウト時に彼女はアイドルは自分とは正反対であると述べていた事にも注目しておきたい。

 

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つまるところ、可愛くなくて、カッコ悪くて、キラキラしていない(少なくとも自身によってそう評されている)顔こそが「冬優子」に他ならないのだ。

 

しかし、「ふゆ」が生まれたのは決してアイドルになるからではない。黛冬優子のスカウト時には既に「ふゆ」であったからだ。プロデューサーが「冬優子」の存在を知るのはもう少し先の話になる。

 

ここで思い出しておきたいのが黛冬優子の推しアニメ「魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ」の存在だ。この作品については作中でもほとんど言及がなく忘れられがちだが、黛冬優子を語る上で重要なファクターである。

 

それは、彼女がこの作品を評した「とっても素敵なアニメなんですよ。登場人物がどの子も可愛くてとっても輝いてる」といった旨のセリフだ。

 

筆者が思うに、「ふゆ」とは本来「魔女っ娘アイドルミラクル♡ミラージュ」、あるいはそれに類似するようなアニメに登場するキャラクターが発端となって生まれた顔ではないだろうか。

 

彼女にとってこのようなアニメに登場するキャラクター達は正に理想の女の子であり、憧れの先だったのだろう。だからこそ彼女は「ふゆ」になり、同じ理想の女の子像であるアイドルに興味を抱いたのだと筆者は考えている。

 

彼女は度々「トップアイドルになる」といった旨の話をするが、彼女にとってトップアイドルとは理想の頂点なのだ。

 

しかし、「ふゆ」は本来の黛冬優子ではない。本来の黛冬優子とは「冬優子」に他ならず、その証拠にプロデューサーとストレイライトの面々は筆者が知る限り1度たりとも黛冬優子を「ふゆ」とは呼んでいない。(彼女が「ふゆ」しか見せていなかった時ですら彼らは「冬優子」と呼び続けた)

 

この2つの顔こそが黛冬優子の最大の魅力ではあるのだが、それを述べるにはある小説の話が必要だと思う。

 

2,静寂の頃はまだ遠く

 

上に記したのはPSSR「オ♡フ♡レ♡コ黛冬優子」におけるイベント名だ。

 

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「オ♡フ♡レ♡コ黛冬優子」

 

このイベントに置いて黛冬優子は冬という季節について言及している。プロデューサーとの会話においては冬の寂しさをひとつの魅力として感じているといった旨の発言もあった。

 

筆者はこのイベントを見た時、ある作品を思い浮かべた。冬、寂、ストレイライト、そして「ふゆ」と「冬優子」、これらはウィリアム・ギブスンによって著され、1984年に発行されたSF小説ニューロマンサー』から大きな影響を受けていると思えてならなかった。

 

この作品はサイバーパンクの代名詞とも言われる長編小説で、後のサイバーパンク作品に大きな影響を与えた小説として知られている。

 

筆者自身、この作品を読んだのは5年以上前で、そもそも内容が難解であったのもあり、記憶が曖昧ではあるのだが、この作品に「迷光(ストレイライト)」、「冬寂(ウィンターミュート)」という単語は確かに登場する。

 

また、サイバーパンクというワードはストレイライトの世界観とも非常にマッチしていて、切っても切り離せない関係であることは間違いない。

 

小説『ニューロマンサー』において、「冬寂」は主人公を利用する立場として描かれるAIで、その目的は「意志を持ったもうひとりの自分」(作品内ではニューロマンサーと表現されている)との統合によってAIとして絶対的に進化すること、であった。

 

もうお分かりだろう、黛冬優子は「冬寂」そのものなのだ。

 

黛冬優子のプロデュースイベントではあるカメラマンから「君の笑顔は本物じゃない」と罵られ、初めてプロデューサーの前で「冬優子」を曝け出すシーンがある。

 

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しかし、全てを曝け出した後、彼女は「ふゆ」と「冬優子」との統合を果たし(表面上は「ふゆ」を維持しつつも)同じカメラマンに納得される本物の笑顔を見せることに成功する。

 

小説『ニューロマンサー』においても「冬寂」は統合を果たし世界を支配することすら可能なAIに進化を遂げるが、黛冬優子も「ふゆ」と「冬優子」の統合によってアイドルとして大きく成長する事となったのだ。

 

3,Straylight.run()

 

これはストレイライト初のイベントストーリーであり、ストレイライトの結成秘話となっているイベントの章題だ。(余談だが、筆者はこの章題が大変気に入っている。サイバーパンクな世界観のストレイライトにおいてプログラミング言語を想起させるような表現は非常に世界観とマッチしていて最高だ)

 

さて、ここまでストレイライトのメンバーに一切触れずに話をしてきたが、ここから先はそうもいかないのでまずは簡単に紹介しておく。

 

まずは冒頭でも名前が出ている芹沢あさひ。

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ストレイライトのセンターを務める。好奇心旺盛で常に周りを驚かせる。ファン感謝祭編では他2人に比べ圧倒的な人気を誇る天才アイドルとして描かれるほどの才能を持つアイドルだ。

 

そして最後の1人、和泉愛衣。

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そのルックスと寡黙なキャラクターからクールビューティとしてファンから愛されるアイドル。しかし、その実、人を思いやる優しい心も持っている。

 

ストレイライトは、この2人に黛冬優子を加えた3人で構成されている。

 

プロデューサーは黛冬優子に対し、「ぴったりな2人を見つけた」と持ちかけユニットとして売り出したのだが、当の彼女は芹沢あさひの奔放さや和泉愛衣の頼りなさに苛立ちを隠せないでいた。

 

黛冬優子はこのとき、ストレイライトの2人に対して「ふゆ」として振る舞っていた。「冬優子」は見せていなかったのだ。しかし、中々うまくいかないユニットとしての活動。個人単位で見てもみるみる人気を得ていく芹沢あさひに対して苛立ち、うまくパフォーマンスを発揮できないでいた。

 

しかし、あるユニット対抗イベントで芹沢あさひがとった行動に対し、とうとう彼女の怒りが爆発し、図らずも「冬優子」を見せてしまうこととなる。

 

結果的にイベントでは大敗を喫したストレイライトだったが、メンバーに対しても「ふゆ」と「冬優子」の統合を果たしたおかげで、この瞬間からストレイライトが始まることとなる。

 

以上が簡単なイベントのあらすじだ。このイベントによって、黛冬優子はストレイライトの前でも「冬優子」を見せる事ができ、本当の意味で「ふゆ」と「冬優子」の統合を果たすことができた。

 

そして、この統合によってストレイライトはユニットとしても大きく成長したのだ。

 

また、このイベントは小説『ニューロマンサー』において「冬寂」が統合を果たした章の章題「迷光仕掛け(ストレイライト・ラン)」と同じ章題をとっている。ここまで洒落た供給をするシャニマス公式には感服せざるを得ない。

 

4,ヴィラ・ストレイライト

 

元々、小説『ニューロマンサー』において「迷光」とは地名を指すものであった。作品内に登場するスペースコロニーの中の場所のひとつで「ヴィラ・ストレイライト」と呼ばれていた。また、この作品内において「迷光」とは"内側に増殖する"といった性質を持っている。これは当然ストレイライトにも反映されている性質だ。

 

先ほど述べた事からある程度予想がついている読者の方も居るだろうが、ストレイライト内でのパワーバランスは

芹沢あさひ>黛冬優子>和泉愛衣

となっている。

 

特に、芹沢あさひは圧倒的な才と人気を誇っているアイドルだ。このユニット内において、黛冬優子は自身の立ち位置に度々苦しめられる事となる。

 

トップアイドルを目指す黛冬優子にとって身近に居る天才の存在は大きなストレスだ。聡明な彼女はその大きな差を誰より感じているだろう。

 

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時に絶望して立ち止まる事もあった。

 

 

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しかし、黛冬優子が諦めることはない。

 

また、ストレイライトの中で誰よりも苦悩し、努力し、諦めずに芹沢あさひの背中を追い続ける黛冬優子を和泉愛衣は知っている。

 

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天才芹沢あさひに感動し、凡才黛冬優子を知っているからこそ、和泉愛衣は2人の背中を追いかけるのだ。

 

この黛冬優子と和泉愛衣の関係は、週刊少年ジャンプで連載されている『僕のヒーローアカデミア』のキャラクター、元No2ヒーローエンデヴァーと元No3ヒーローホークスとの関係を彷彿とさせる。(ホークスは作中においてエンデヴァーを不器用でも愚直にNo1を追い続けたたった一人のヒーローと評している)

 

当然、黛冬優子によって刺激されているのは和泉愛衣だけではない。

 

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天才芹沢あさひもまた、自身を目指して真っ直ぐに進む黛冬優子に刺激されているのだ。

 

黛冬優子は和泉愛衣を引っ張り、芹沢あさひの背中を押す。

 

確かに、芹沢あさひなくしてストレイライトは有り得ないかもしれない。和泉愛衣の優しさがユニットに暖かい光を与えているのは間違いないだろう。

 

それでも、黛冬優子なくしてストレイライトの急成長はあり得ないのだ。黛冬優子の理想と努力はユニット内に大きな刺激を与え、その刺激は他2人の共鳴によって内側に増殖する。それはストレイライトにとって欠かせない大きな推進力だ。

 

5,終わりに

 

これまで、筆者から見た、黛冬優子というフィルターを通して見たストレイライトについて述べてきた。

 

ストレイライトの魅力はまだまだ語り尽くせないし、芹沢あさひを通して見たストレイライト、和泉愛衣を通して見たストレイライトはまた違って見えるだろう。

 

プロデューサーによって解釈も違うと思う。こういう解釈もあるんだな、と1人でも思っていただけたならこの記事を書いた甲斐があったと言える。

 

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つい先日のイベント『WorldEnd:BreakDown』では和泉愛衣によってストレイライトの1つの形が明言された。

 

これからのストレイライトは益々魅力を増したユニットになっていくだろう。この先が楽しみで仕方がない。

 

(筆者が黛冬優子のオタクではなく芹沢あさひのオタクであるということは忘れないでいただきたい)